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【負動産を断つ】「原野商法」で買った土地を相続した時の完全ガイド:売却戦略、二次被害対策への対応

2025年11月18日

【負動産を断つ】「原野商法」で買った土地を相続した時の完全ガイド:売却戦略、二次被害対策への対応


1. 相続で発覚する「負動産」の現実と法的義務


1-1. 40年を経て再燃する原野商法のリスク:なぜ今、問題なのか

かつて昭和の時代に社会問題となった「原野商法」は、時を経て現在、新たな相続問題として深刻化しています。原野商法とは、本来一坪数円程度の評価額しかない広大な原野や山林に対し、架空のリゾート開発や公共事業の計画イメージ、あるいは風力発電や太陽光発電用地といった当時のトレンドを謳い文句に、価値のない土地を一区画数百万円という高値で多数の被害者に売りつける詐欺的行為でした。

これらの土地の根本的な問題は、単に辺鄙な場所にあるという点に留まりません。多くの場合、土地は山奥など地図上でも見つけることすら困難な場所に存在します。さらに、建物を建てるために必須である建築基準法上の道路に接しておらず、ガスや電気、上下水道といったライフラインも全く存在しないため、購入しても別荘などの住宅建設が法的に不可能な「利用価値のない土地」です。

これらの土地は固定資産税評価額が極めて低いため、評価額の低い不動産では固定資産税の納付通知が送られてこない場合があります。このため、所有者本人がその存在を忘れてしまったり、家族や相続人が不動産の存在を知らないまま放置されてきた事例が多発しています。所有者が死亡し、名義変更が行われないまま放置された土地は「所有者不明土地」となり、日本社会全体の大きな課題となっています。原野商法の土地は、この所有者不明土地化の大きな原因の一つとなっているのです。

1-2. 最優先事項:2024年4月施行!相続登記義務化の徹底解説

相続した負動産を適切に処理する上で、まず解決すべきは「法的な義務」の履行です。特に、2024年(令和6年)4月1日からは、不動産を相続した場合の相続登記の申請が義務化されました。

この義務化の背景には、上記で触れた所有者不明土地の増加を解消し、不動産の円滑な取引を促進する目的があります。義務化の主要なポイントは以下の通りです。

相続登記義務化の要点と罰則
 項目  内容  法的影響
 義務化開始日  2024年(令和6年)4月1日  施行日以前の相続も遡及適用される。
 申請期限  相続により所有権を取得したことを知った日から3年以内  遺産分割が成立した場合は、成立日から3年以内。
 罰則規定  期限内に申請しない場合、10万円以下の過料  法的なペナルティが課される。
 対象者  日本国外に居住されている方も対象となる  海外在住の相続人も例外なく手続きが必須。

この義務を怠ると、10万円以下の過料が科されるだけでなく、実務上の重大なデメリットが生じます。相続登記が行われていない不動産は、売買契約を成立させることができません。また、相続人が増えるごとに権利関係が複雑化し、登記自体が困難になるリスクも高まります。
 
特に重要な点は、この「3年」という期限設定が、負動産の処理におけるタイムリミットを事実上決定づけていることです。後述する不動産売却時の税制優遇措置である「相続税の取得費加算の特例」も、相続税の申告期限の翌日以後3年以内の売却を要件としています。つまり、不動産を売却して税務上のメリットを最大限に享受しようとする場合、法的な登記手続き(3年以内)と税務上の特例適用(3年以内)が同期しており、相続人はこの期間内に登記を完了させ、売却活動を並行して行う必要性が生じるのです。相続登記は、負動産を売却または処分可能な状態にするための、法的な出発点であると認識すべきです。

2. 最大の罠!相続した原野を狙う「二次被害」の手口と防御策


2-1. 高齢化を狙う二次被害の典型的なパターン

原野商法の被害が現代に再燃している最大の理由は、当時の被害者(第一次被害者)が高齢化していることにあります。2010年代以降、この第一次被害者やその相続人を狙った二次被害が急増しており、特に70代、80代といった高齢者が、正常な判断ができない状態で勧誘に言われるがまま契約してしまうケースが少なくありません。
二次被害の業者は、被害者の「長年抱えてきた負動産を処分したい」という切実なニーズを悪用します。勧誘は訪問販売が最も多く(63%)、次いで通信販売や電話勧誘販売といった形態で多発しています。

二次被害で多発する虚偽の勧誘と金銭要求の手口

悪質な業者が用いる手口は巧妙化しており、常にその時々のトレンドに関連づけて原野を高値で売ろうとします。
 
1. 虚偽の高額買取・開発話:
「お持ちの土地が高値で買い取れるようになった」「近隣で大規模な開発計画(風力発電、太陽光発電用地、キャンプ場など)が進行している」といった虚偽の説明を持ちかけます。実際には、悪徳不動産販売業者から提示される土地は資産的価値がありません。
 
2. 測量費・調査費用請求詐欺:
買取を実現するための前提条件として、「土地の測量費」「登記手続き費用」「価値向上のための行政手続き費用」など、様々な名目で金銭を要求します。この費用を支払った後、業者と連絡が取れなくなるケースが多数報告されています。
 
3. 別土地購入の強要:
高齢者に相続税の税金対策として土地の買取を申し出る際、買取条件として、別の価値のない土地の購入をセットで求めてくる場合があります。相続税の節税額よりも、業者に支払う金額の方が多くなるため、結果として資産を失うことになります。

2-2. 被害を防ぐための鉄則と公的な相談窓口

二次被害を防ぐための最も重要な鉄則は、不審な勧誘を受けた際にその場で即断しないことです。特に「どんな土地でも買います!」「特別なルートで売却できる」といった甘い誘い文句には、常に警戒心を持つ必要があります。
 
この問題は、被害者本人の努力だけでなく、家族や地域社会による「見守り」が不可欠です。高齢者が口数が減ったり、借金を申し込んでくるなど、生活に変化がないかご家族が日頃から気を配ることが重要です。原野商法業者が特定の住居エリアをターゲットに再勧誘している事例も確認されており、詐欺の被害防止は、土地が所在する広域ではなく、被害者の居住地域において、身近な家族や公的機関との連携を通じて行うことが極めて有効です。
 
不審な勧誘を受けた場合や、すでに金銭を支払ってしまった場合は、以下の公的な相談窓口へ速やかに連絡すべきです。
 
  • 消費者ホットライン(電話番号188): 全国共通の番号で、身近な消費生活相談窓口を案内しています。
  • 弁護士会: 兵庫県弁護士会のように、消費者被害に関する相談を無料で受け付けている弁護士会も存在します。被害に遭った場合でも、契約の種類や販売形態(訪問販売など)によってはクーリングオフ制度を利用できる可能性があるため、法的専門家への迅速な相談が求められます。

3. 負動産の「売却」戦略と税務上の特例活用


3-1. 困難な不動産売却の現実と客観的価値の把握

原野商法で取得した土地は、道路がない、ライフラインがない、境界が確定していないといった致命的な欠陥を抱えているため、売却は極めて困難です。しかし、売却の可能性をゼロと決めつける前に、まずはその土地の客観的な価値を正確に把握することが重要です。

まず、土地の市場価値を査定するために、不動産鑑定士に依頼することを検討すべきです。鑑定書があれば、購入希望者への信頼性を高める要素となり、売却の参考価格を明確にできます。

また、相続税や贈与税を計算する場合に使用される評価額として、国税庁が公開している「路線価図・評価倍率表」を用いて、土地の評価額を把握できます。路線価方式や倍率方式を確認することで、少なくともその土地が税務上どのような評価を受けているのかがわかります。

売却戦略においては、地域密着型の専門知識が不可欠です。都心の一等地と異なり、地方にある原野商法の土地を売却する場合、その土地の状況(草刈りや近隣への配慮など)や役所での確認等を含めて包括的に対応できる、地元に経験の深い不動産業者に依頼することが、長期的な売却活動を成功させる鍵となります。

3-2. 相続不動産売却時の節税対策:知っておくべき税制特例

相続不動産を売却して譲渡益が発生した場合、譲渡所得税が課されますが、相続時に適切に対応することで、この税負担を軽減できる特例が存在します。譲渡所得税の税率は、不動産の所有期間によって大きく異なります。相続の場合、所有期間は被相続人が土地を保有を開始した日から計算されます。原野商法の土地は通常、40年以上にわたり保有されているため、長期譲渡所得(所有期間5年超)に該当することが多いでしょう。

相続不動産売却時の譲渡所得税率(復興特別所得税を含む)
 所有期間  所得税  住民税  合計税率
 短期譲渡所得(5年以下)  30.000%  9.000%  39.630%
 長期譲渡所得(5年超)  15.000%  5.000%  20.315%

税率を半分以下に抑える長期譲渡所得が適用される可能性が高いですが、節税を最大化するために以下の二つの重要な特例を検討すべきです。

【必須特例①】相続税の取得費加算の特例

この特例は、相続税を支払った人が、相続税の申告期限の翌日以後3年以内に相続した不動産を売却した場合に適用されます。

メリット: 支払った相続税のうち、売却した不動産に対応する分を、譲渡所得計算上の「取得費」に加算できます。譲渡所得は「譲渡価額-(取得費+譲渡費用)」で計算されるため、取得費が増えることで譲渡所得が減少し、結果として節税が可能です。

重要性: 前述の通り、相続登記の義務化の期限(3年)と、この特例の適用期限(3年)が重なっています。負動産を早期に手放し、かつ税負担を抑えるためには、この3年という時間軸を意識した計画的な手続きが必須となります。この特例の適用を受けるためには、確定申告時に相続税申告書の写しなど、一定の書類を添付する必要があります。

【必須特例②】被相続人の居住用財産の3,000万円特別控除(空き家特例)

原野商法の土地自体には適用されませんが、被相続人が住んでいた自宅(居住用財産)と、原野商法の土地を同時に相続・売却する場合、この特例の適用も視野に入れる必要があります。一定の要件を満たすことで、譲渡所得から最大3,000万円が控除されます。
相続不動産の売却では、これらの特例を適用するための要件確認や、最も効果的な特例の選択、必要書類の作成などが複雑になるため、必ず税理士などの専門家に相談しながら進めるべきです。

4. 売却が不可能な場合の最終的な処分方法


4-1. 画期的選択肢:相続土地国庫帰属制度の利用検討

売却が極めて困難で、管理維持費(固定資産税、草刈り費用など)だけがかかる「負動産」を次世代に残さないための画期的な選択肢として、「相続土地国庫帰属制度」が2023年(令和5年)4月27日から開始されました。この制度は、相続または遺贈により土地の所有権を取得した相続人が、一定の要件を満たした場合に、国に土地を引き取らせることができるものです。

利用の流れと費用

制度の利用を希望する場合、まずは法務局への事前相談が推奨されています。これは、申請が却下される事態を避けるためです。
1. 申請: 申請書類を土地の所在地を管轄する法務局・地方法務局(本局)に提出します。
2. 審査手数料の納付: 申請の際に、審査手数料として土地一筆当たり14,000円を納めます。
3. 要件審査: 書面審査と実地審査が行われます。
4. 負担金の納付: 審査に合格した場合、承認後、土地の種類や面積に応じた負担金(10年分の土地管理費相当額)を納付します。原野や雑種地などの「その他」の土地については、面積にかかわらず20万円の負担金が原則とされています。
5. 国庫帰属の完了: 負担金の納付が確認されると、国が所有権移転登記を行い、手続きは完了します。

4-2. 原野商法の土地が国庫帰属制度で承認されにくい理由

相続土地国庫帰属制度は所有者不明土地問題の解消を目指していますが、皮肉なことに、原野商法で取得された土地は、その性質上、この制度の定める"引き取り対象外の要件(ブラックリスト)"に高確率で該当してしまうという構造的な困難さを抱えています。
 
国は、管理コストを不当に転嫁することを防ぐため、管理に大幅な手間がかかる土地を不承認としています。原野商法の土地が該当しやすい主な不承認要件は以下の通りです。
 
1. 管理の困難性: 道路が存在せず、利用できない土地、または著しく管理が困難な土地。
2. 権利関係の不備: 抵当権などが設定されている土地は申請不可。
3. 境界の未確定: 土地の境界が明確に確定していない場合。
4. 建物の存在: 原則として更地(建物がない土地)が対象であり、古い倉庫や工作物が残っている場合は不承認となる。

実際に、原野商法で買わされた土地は「道路がないなどの状況で売れない土地もあり、この場合、国庫帰属制度では申請できない土地となる可能性が高い」との指摘があります。もし申請が不承認となった場合でも、例えば古い倉庫を解体・撤去するなど、不承認の理由を解消するために費用を投じて再申請を検討する価値はありますが、事前の徹底的な調査が不可欠です。

4-3. その他の処分方法の検討

  • 国庫帰属制度の利用が難しい場合や、別の財産も含めて相続全体を拒否したい場合には、以下の選択肢があります。
  • 相続放棄: 負動産だけでなく、預貯金やその他の財産を含めたすべての相続財産を放棄する手続きです。相続開始を知った日から3ヶ月以内という厳格な期限内に、家庭裁判所に申し立てを行う必要があります。
  • 隣接地の所有者への譲渡・寄付: 自身にとっては価値のない原野であっても、隣接地の所有者にとっては、自身の土地と合わせて利用価値が高まる可能性があります。売却が困難であれば、無償での寄付や贈与を交渉することで、処分費用をかけずに手放せる可能性があります。
  • 地方自治体や第三者への寄付: 地方自治体や特定の団体への寄付も考えられますが、自治体側も管理責任を負うため、管理が難しい原野の寄付は容易には受け入れられないのが実情です。

5. 円満な相続と負動産解決のための専門家連携


5-1. 負動産処理におけるワンストップサービス体制の重要性

原野商法を巡る相続問題は、日本の不動産取引の中でも特に複雑な分野であり、単一の専門家や個人での解決は極めて困難です。相続登記、遺産分割協議、二次被害対策、客観的な土地査定、譲渡所得税の計算と特例適用、売却活動、そして国庫帰属制度への申請など、法務、税務、不動産取引の複数の領域を横断する専門知識が求められます。

この複雑な課題に対応するためには、弁護士、司法書士、税理士、不動産会社が連携したワンストップサービス体制を利用することが、最も効率的かつ安全な解決策となります。

  • 司法書士: 2024年4月からの相続登記義務化に対応するための登記申請や、遺産分割協議書の作成を支援します。
  • 税理士: 不動産売却時の譲渡所得税の計算と、「取得費加算の特例」や「空き家特例」など、税制上のメリットを最大化するための戦略立案と確定申告を担います。
  • 不動産業者: 負動産の客観的な市場価値を査定し、売却が困難な場合の処分先の探索や、国庫帰属制度に向けた土地の現況チェック(例:古い工作物の撤去)などをサポートします。

特に、地方に点在する原野商法物件の場合、その物件の所在地の法務や不動産市場に精通した地元の専門家を活用しつつ、相続人側の居住地(東京や大阪など都心部)の連携専門家に全体戦略の立案を依頼することで、煩雑な手続きを円滑に進める鍵となります。

5-2. 負動産を次世代に残さないためのロードマップ

相続した原野商法の土地は、そのまま放置すれば、所有者不明土地となり、次世代に大きな法的・経済的負担を残します。負の遺産を断ち切るためのロードマップは以下の手順で進めるべきです。

1. 現状の正確な把握と専門家への相談: まずは戸籍謄本など必要な書類を揃え、法務局や連携体制を持つ専門家グループに相談し、土地の法的・経済的価値を正確に把握します。初回相談を無料で受け付けている専門家も多く存在します。
2. 法的な義務の履行: 2024年4月からの義務化に伴い、相続を知った日から3年以内に相続登記の申請を完了させ、過料や売却不能のリスクを回避します。
3. 二次被害の防御: 悪質な勧誘には一切応じず、家族全員で警戒し、不審な連絡は直ちに公的機関や専門家に相談します。
4. 売却戦略の立案: 相続税の取得費加算の特例(3年期限)を活用できるよう、登記完了後速やかに、地元に強い不動産業者と連携し、売却の可能性を探ります。
5. 最終処分方法の決定: 売却が不可能な場合、国庫帰属制度の引き取り対象外要件を精査した上で、申請の可否、または隣接地への寄付・贈与など、他の処分方法を検討します。

負動産の問題は、時間が経過するほど解決が困難になり、費用も増大します。相続登記の義務化と税制優遇の期限が重なる今こそが、負の遺産を整理し、次世代へ安心を引き継ぐための最適なタイミングです。迅速かつ正確な手続きのためにも、必ず専門家の包括的なサポートを仰ぐことが、最終的な解決への最短ルートとなります。
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