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共有名義不動産の売却戦略:国分寺市における認知症と相続の壁を乗り越える法的・税務的指南

2025年11月16日

共有名義不動産の売却戦略:国分寺市における認知症と相続の壁を乗り越える法的・税務的指南

I. 国分寺市で直面する共有名義不動産売却の壁:なぜ認知症は決定的な問題となるのか

1-1. 不動産売却の前提:民法上の「意思能力」の原則と共有名義の責任

不動産の売却は、法律上、重大な財産行為であり、その効力を発生させるためには、売主側の有効な意思表示が必要です。特に共有名義不動産の場合、民法の原則として、不動産全体を売却するには、共有者全員からの合意が必須となります。この合意が欠けている場合、契約は成立しません。
 
ここで問題となるのが、共有名義人のうち一人が認知症を患ってしまったケースです。民法において、契約行為を行うために必要な「意思能力」(契約の法的な意味や結果を理解する能力)が欠けていると判断された者が行った契約は、法的に無効または取り消し可能となります。
 
国分寺市内の実家など、多くの場合、相続によって共有名義となっている物件は、売却の必要性が生じても、認知症の共有者が一人いるだけで手続きが停止します。たとえ他の共有者が売却に強く賛成していても、認知症の共有者が行ったとされる同意や契約は、後々法的瑕疵(かし)を問われるリスクがあるため、買主側も敬遠し、結果として市場での売却は不可能になるのです。

1-2. 委任状の誤解と成年後見制度活用の必須性

認知症を発症する前であれば、他の共有者が本人から委任状を受け取り、売却手続きを進めることが可能です。しかし、認知症の発症により本人が意思能力を失ったと判断された後では、既に作成されていた委任状であっても、本人の意思決定能力が欠けているため、法的な効力が認められません。
 
つまり、認知症が進行し、本人の判断能力が失われた後に共有名義不動産を法的に有効に売却するためには、もはや私的な合意や委任状ではなく、裁判所が関与する公的な仕組みを利用することが必須となります。その唯一の手段が「成年後見制度」(法定後見)の利用です。

II. 売却を可能にする法的手段:成年後見制度の全体像と類型


2-1. 法定後見制度が不動産売却に必須な理由と3つの類型

法定後見制度は、判断能力が低下した本人を保護し、その財産管理や契約行為を法的に支援するために設けられた制度です。成年後見制度を利用することで、家庭裁判所から選任された後見人が、意思能力を失った共有名義人に代わって契約の代理行為を行い、その法的な有効性を担保します。
 
法定後見制度は、本人の判断能力の程度に応じて、「後見」「保佐」「補助」の3つの類型に分類されます。不動産の売却は、本人の財産形成に重大な影響を与える行為であるため、どの類型においても慎重な手続きが求められます。
 
特に不動産売却を目的とする場合、判断能力を常に欠く状態(民法第7条)にある場合は「後見」を申し立てることが、手続きを簡潔に進める戦略的な選択となり得ます。保佐や補助の場合、代理権の範囲が制限されるため、不動産売却という重大な行為の代理権を得るために、別途、家庭裁判所への申立てが必要となり、手続きが二重化するリスクがあるためです。

2-2. 成年後見制度:類型別 対象者と不動産売却への影響

法定後見制度の3つの類型は、それぞれ対象となる判断能力の程度と、後見人等を選任する際の本人の同意の要否が異なります。
 
成年後見制度:類型別 対象者と本人の同意の要否
 類型  対象となる人(判断能力の状況)  本人の同意(契約/代理権付与)  不動産売却への影響
 法定後見(後見)  判断能力を常に欠く人(民法7条)  不要  後見人が代理。居住用は裁判所許可必須
 法定後見(保佐)  判断能力が著しく不十分な人(民法11条)  原則不要(ただし代理権付与には本人の同意が必要な場合あり)  保佐人が代理。居住用は裁判所許可必須
 法定後見(補助)  判断能力が不十分な人(民法15条)  原則必要  補助人が代理。居住用は裁判所許可必須
不動産売却を迅速に進めたい場合、特に後見人を選任する際には、本人が売却の意思表示をすることが不可能であるため、「後見」の類型で申し立てを行い、後見人に広範な代理権を付与してもらうことが最も確実な方法となります。

III. 成年後見人による不動産売却の具体的な流れと期間


3-1. 長期化する後見人選任プロセスと売却活動の開始

成年後見制度を利用した不動産売却は、家庭裁判所の手続きを複数回経るため、長期化することを覚悟しなければなりません。
 
まず、後見人を選任するための家庭裁判所への申立てから、審理を経て実際に後見人が選任されるまでには、通常約4ヶ月程度の期間が必要です。この期間は事案によって変動します。
 
後見人が選任された後、ようやく不動産会社と媒介契約を結び、売却活動を開始できます。売却活動自体にかかる期間は、市場の状況や物件の特性によりますが、一般的に3ヶ月から1年程度と幅があります。後見人には、本人の利益を最大限に守る義務があるため、売却活動においては、不動産査定額と実際の売却価格の間に大きな乖離が生じないよう、慎重な活動が求められます。

3-2. 居住用不動産の売却は特別:家庭裁判所の「処分許可」が必須

後見人が選任されたからといって、すぐに不動産を自由に売却できるわけではありません。売却を予定している不動産が「居住用不動産」に該当する場合、後見人は必ず家庭裁判所の売却処分許可を得る必要があります。
 
居住用不動産とは、住民票上の住所地にある不動産に限らず、施設入所前に本人が居住していた場所や、本人が将来的に居住する可能性がある不動産も含まれます。本人の生活基盤を維持するための重要な財産であるため、その処分には厳格な司法のチェックが入るのです。
 
この処分許可を得るためには、売買の必要性(例:介護費用の捻出)や、売却価格の妥当性、売却後の本人の生活環境(次の住居の確保状況)など、詳細な資料と説明が求められます。裁判所は本人の利益確保を最優先するため、許可要件は非常に厳格です。

3-3. 裁判所への申立てから決済までのロードマップ:停止条件付契約の活用

家庭裁判所に居住用不動産の処分許可を申立てる際、実務上は、既に買主候補者が決まっており、具体的な契約内容が固まっていることが前提とされます。申立てには、買主・売主等の住所氏名や金額などの記載がある具体的な契約書案を提出する必要がありますが、この段階では押印は不要とされています。
実務を円滑に進めるための重要なテクニックとして、買主との売買契約は、事前に「家庭裁判所の許可が得られることを停止条件とする」という形で締結されます。これにより、買主を確保しつつ、法的な許可を待つことができます。
 
裁判所による審理期間は、問題のない事案であれば1〜2週間程度が目安ですが、事案によってはそれ以上の時間を要することがあります。裁判所の許可が下りた後、後見人は許可された条件に基づき、所有者の代理人として買主と正式な売買契約を締結します。許可が下りてから契約締結までは、書類準備などで1〜2週間程度で完了するのが一般的です。

IV. 長期化リスクを回避する!認知症に備える生前対策


4-1. 法定後見制度の潜在的なデメリットと時間的・費用的な負担

認知症発覚後に法定後見制度を利用する場合、前述の通り、後見人選任から売却完了までに長期間を要し、柔軟な対応が難しいというデメリットがあります。
 
さらに、後見人の報酬や裁判所への申立て費用など、継続的な経済的負担が発生します。裁判所の厳格な監督下に置かれるため、不動産の売却タイミングや、本人の財産を活用した柔軟な対策を講じることが困難になる場合が多いのです。
 
特に共有名義不動産を将来的に確実に売却する必要がある場合、法定後見制度の利用は手続きの遅延とコスト増大を招くため、本人の判断能力が正常なうちの生前対策を講じることが極めて重要になります。

4-2. 予防策①:判断能力低下後に備える「任意後見制度」

将来、認知症などで判断能力が低下した場合に備える生前対策として、「任意後見制度」があります。これは、本人がまだ正常な判断能力を持っているうちに、将来の任意後見人を選び、委任する内容(金銭の管理や不動産の取り扱いなど)を公正証書で契約する制度です。
 
任意後見契約の効力が発生するのは、本人の判断能力が低下した後、家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時点です。
 
任意後見制度の最大のメリットは、本人の意思に基づき、不動産売却のタイミングや金額など、将来の生活に関する希望を契約内容に具体的に盛り込める点にあります。公正証書の作成には、公証役場の手数料や登記嘱託手数料など、一定の費用が発生します。

4-3. 予防策②:共有不動産の管理・処分権限を移転する「家族信託」の活用

生前対策の中でも、特に共有名義の不動産を持つ家族にとって強力な選択肢となるのが「家族信託」です。
家族信託とは、委託者(財産の所有者、例:親)が、特定の財産(不動産など)を受託者(財産を管理する人、例:子)に託し、受益者(利益を得る人)のために管理・処分を任せる仕組みです。
 
家族信託の大きな優位性は、委託者の体調や判断能力に左右されず、受託者が信託契約に基づき不動産の処分・管理を柔軟に行える点にあります。共有者全員の持分を信託財産とすることで、受託者の判断のみで大規模な修繕や売却を進めることが可能となります。
 
さらに、共有名義物件は相続が発生するたびに持分が分散し、次の世代で売却がさらに困難になるというリスクがありますが、家族信託を設定することで、将来的な共有者増加によるトラブルを防ぎ、管理権限を一元化する効果も得られます。法定後見制度の煩雑さや柔軟性の欠如を回避し、共有不動産の売却を円滑に進めるための最も有効な予防策と言えます。

V. 国分寺市の相続売却で実現する税制優遇(3,000万円特別控除)


5-1. 譲渡所得税の計算構造と相続後の税務戦略

不動産を売却して利益(譲渡所得)が発生した場合、その所得に対して譲渡所得税(所得税および住民税)が課税されます。税率は、売却した不動産の所有期間によって大きく異なり、所有期間が5年超の場合は約20.315%(長期譲渡所得)、5年以下の場合は約39.63%(短期譲渡所得)となります。
 
ここで「売却タイミングのジレンマ」が発生します。認知症対策として生前に売却を急ぐか、あるいは相続を待ってから売却するか、という選択です。
 
多くのケースにおいて、相続によって不動産を取得した場合、被相続人(亡くなった人)の取得時期を引き継ぐことができるため、結果的に低税率の長期譲渡所得となる可能性が高く、税務上は相続後の売却が有利になる場合が多いと考えられます。

5-2. 空き家の特例(3,000万円控除)の概要と厳格な適用要件

相続後の売却において、大きな節税効果をもたらすのが「被相続人の居住用財産を譲渡した場合の3,000万円特別控除」(通称:空き家の特例)です。この特例を利用できれば、譲渡所得から最大3,000万円が控除され、大幅に税負担を軽減できます。
 
この特例を適用するためには、以下のような厳格な要件をクリアする必要があります。
 
1.家屋が昭和56年5月31日以前に建築されたこと。
2.家屋が区分所有建物(マンションなど)ではないこと。
3.家屋や敷地の譲渡価格が1億円以下であること。
4.家屋とその敷地を両方とも相続により取得していること。

5-3. 共有名義人が複数いる場合の控除額の制限(令和6年以降の改正)

相続空き家の特例は、相続人(共有名義人)それぞれに対して適用されるため、共有名義の物件であっても大きな節税効果が期待できます。
 
しかし、令和5年度税制改正により、令和6年1月1日以降の譲渡から、共有名義人の数によって控除額に制限が設けられました。
 
 相続人(共有名義人)の数  1人あたりの控除限度額  全体の手取りへの影響
 1人または2人の場合  3,000万円  変更なし
 3人以上の場合  2,000万円  1人あたりの控除額が減額

国分寺市で兄弟姉妹などが共同で実家を相続し、相続人が3名以上となるケースは少なくありません。この改正は、共有名義物件を相続後に売却する場合の手取り額に直接的な影響を与えるため、遺産分割協議を行う際に、税理士と連携した綿密な税務計算が不可欠となります。
 
さらに、特例適用要件として、家屋と敷地の両方を相続により取得する必要があります。生前贈与で家屋を、相続で敷地を取得した場合などは適用が認められません。遺産分割のやり直しによる取得も、原則として適用外となるため、遺産分割協議は慎重に進めなければなりません。

VI. 国分寺市で共有名義不動産を売却するためのチェックリストと専門家連携

6-1. 売却を成功させるためのアクションプラン

共有名義、認知症、相続という複雑な要素が絡む不動産売却を成功させるためには、状況に応じた明確な行動指針が必要です。
 
【認知症発覚前の場合:予防対策】
1.任意後見制度の検討: 将来の不動産売却に関する本人の意思を明確にするため、任意後見契約の公正証書を作成する。
2.家族信託の検討: 共有名義物件の管理・処分権限を一元化し、将来の相続分散リスクを回避するため、受託者を定めた家族信託契約を組成する。
 
【認知症発覚後の場合:緊急対応】
1.法定後見制度の申立て: 意思能力が完全に欠如している場合は、「後見」の類型で家庭裁判所に申立てを行い、後見人の選任を迅速に行う。
2.不動産会社の選定: 成年後見制度下での売却、特に停止条件付契約の取り扱いや、居住用不動産処分許可の実績が豊富な、信頼できる地域密着の不動産会社を選定する。

6-2. 国分寺市で頼れる専門家ネットワークの重要性

共有名義不動産の売却、認知症への対応、そして相続税対策は、法律(民法、家事事件手続法)、不動産実務、税務(譲渡所得税)の知識が複合的に必要とされます。単一の専門家で対応することは非常に困難です。
 
このため、国分寺市内で不動産売却を円滑に進めるには、以下の専門家が連携したネットワークを活用することが必須となります。
1.弁護士: 成年後見制度の申立て代理、複雑な遺産分割協議の交渉、および訴訟対応(遺留分請求など)を担当する。
2.司法書士: 不動産の相続登記、家族信託の組成、後見制度関連の書類作成を担当する。
3.税理士: 相続空き家の特例(3,000万円控除)の適用判定や、相続税・譲渡所得税の試算を行い、最も有利な売却タイミングや遺産分割方法について助言する。
 
国分寺市周辺で活動する専門家は、地元の家庭裁判所(東京家庭裁判所立川支部等)の審理傾向や、地域の不動産市場の実情に精通しているため、手続きの円滑化と迅速な売却に大きく貢献できます。まずは国分寺市で相続や不動産売却に強い専門家へ相談することから、具体的な問題解決への一歩を踏み出すことが推奨されます。
 
【本稿は、不動産売却、共有名義、認知症、相続に関する法律、税務、および実務上の留意点をまとめたものであり、個別の事案に対する法的助言を提供するものではありません。具体的な手続きを進める際は、必ず専門家にご相談ください。】
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